物心ついたときだったか
おそらく多分
中学生の頃からだったと思う
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誓い事が成就しなかったり
もの思いにふけることがあるたび
この場所をおとずれた
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観光客を避け
間近の靴音や車のエンジンの唸りから遠ざかる事ができるこの場所に
展望塔を持った屋敷がある
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この家には
金色の髪の 碧(みどり)色の瞳をした家族が住んでいた
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外国人が多いこの街のなかでも
背が高く 姿勢のいいこの家族
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その中の同じ年くらいの少女の清廉さに
なぜか惹かれた
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ものめずらしさではなく
こそばゆい表現かもしれないが
恋心だったのかもしれない
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坂を降りる途中
急な坂を登って来たその少女と
一度だけ目が会ったことがある
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彼女は どこにでもいる坊主頭の中学生にさして興味も示さず
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逆にぼくは 碧色のその瞳に吸い込まれないよう
凝視する事を避けた
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坂を下るぼくと 登る碧の目の少女は
あっという間にすれ違ったが
ぼくの顔だけが熱く火照り残った
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このように
こそばゆい恋心をやり過ごしたのだ
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この家は その家族が越して行ってから
ほんのしばらくの間 公開異人館になったが
すぐに誰もが訪れぬ場所となった
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あまりにも坂の上すぎたのだ
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あれから45年が過ぎた
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かつて 港に出入りする自分の船舶を
監視するための塔の屋根には 錆が出ていた
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風景もずいぶん変わったが
やはり物思いにふけるにはちょうどいい場所だ
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碧色の瞳をした少女や
金色の髪の家族はもういないが
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こそばゆい感覚だけは
想い出すのに難くない
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須佐厳

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